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徳島地方裁判所 昭和64年(行ク)1号 決定

申立人

徳島県地方労働委員会

右代表者会長

小川秀一

被申立人

池田電器株式会社

右代表者代表取締役

池田孝

主文

被申立人は当庁昭和六三年(行ウ)第一八号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで申立人が被申立人に対して発した徳島地労委昭和六二年(不)第五号不当労働行為救済申立事件にかかる命令に従わなければならない。

理由

一  本件申立ての趣旨及び理由は別紙緊急命令申立書記載のとおりである。

二  まず、本件救済命令の適否について判断する。

会社が破産宣告を受けると、破産宣告時に会社が有する財産は原則として破産財団となり(破産法第六条)、その管理処分権者として破産管財人が選任される(同法第一五七条)。しかしながら、破産管財人の権限は破産財団に関するものに限られ、破産会社の法人格の存否及び組織に関する権限は破産宣告後も破産会社ないしその代表取締役に残されていると解せられる。

破産法には、破産手続を開始した後も破産者をして財団の管理処分の機能を回復させ、その総財産を換価しないで、従来の事業を継続させるための強制和議の制度や破産債権者の同意をえて破産宣告の効力を将来に向かって消滅させるための破産廃止(同意廃止)の制度が設けられ、破産手続開始後も破産会社を存続させる余地が残されているのであって、強制和議の提供や同意廃止の申立は破産者においてのみこれをすることができるのである(同法第二九〇条、第三四七条)。このように、破産会社には破産手続開始後も法律上事業を継続させる余地が残されているのであり、実際的には法律上可能な手続以外の手段によっても労働者の雇用確保を図る余地がある場合もないではない。してみると、強制和議などの制度を利用してする事業の継続、そのほかの手段による労働者の雇用確保等の問題は本来的に破産財団に関する事項ではなく、破産手続開始後といえども、破産会社ないしその代表者にこれを処理する権限が残されていると解するのが相当である。

本件救済命令は右のような見地に立って発せられたものであり、本件救済命令には法律の解釈を誤った違法はない。

三  次に、本件救済命令の必要性について検討するに、本件疎明によれば、被申立人の従業員(本件救済命令の申立人徳島県金属機会労働組合船井電機支部の構成員)は全員解雇されており、被申立人は破産宣告を受け、従業員及びその家族の生活身分は著しく不安定な状態に置かれているのであって、破産手続が進行している現状に鑑みると、もし、主文掲記の訴訟事件の判決確定に至るまで本件救済命令の内容が実現されないならば、各従業員が将来回復不能な損害を被ることは明らかであるとともに、この状態を放置することは労働組合の団結権にも回復し難い打撃を与えることが一応認められるから、緊急命令を発する必要性があるものというべきである。

四  よって、本件申立ては理由があるから、これを認容し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 永野圧彦 裁判官 栂村明剛)

緊急命令申立書

申立の趣旨

右当事者間の御庁昭和六三年(行ウ)第一八号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決が確定するまで「申立人が昭和六三年一〇月二七日徳島県地方労働委員会昭和六二年(不)第五号事件につき、被申立人に対してなした命令に従わなければならない。」との決定を求める。

申立の理由

一 本件被申立人は昭和六二年五月一一日従業員を全員解雇するとともに、御庁に対し和議の申立を行った。これに対して徳島県金属機械労働組合及び徳島県金属機械労働組合徳島船井電機支部(以下二者を「組合」という。)は、本件被申立人と「倒産・解雇・再建などの問題について」を議題とする団体交渉を行ったが、五回の交渉の末、本件被申立人は同年七月二二日団体交渉拒否の通告を行った。

同年八月二二日組合は、本件申立人に対して、右団体交渉拒否は労働組合法第七条第二号に該当するとして救済を求めた。

二 その後昭和六三年一月一九日本件被申立人は御庁より破産宣告の決定を受け、同日破産管財人が選任された。

このため本件申立人は、同年七月六日第三二〇回公益委員会議の決定により、破産管財人を職権で当事者に追加した。

三 本件申立人は、右救済申立につき審査の結果、本件被申立人の団体交渉拒否に正当な理由がないと判断し、本件被申立人及び破産管財人を被申立人として、昭和六三年一〇月一一日付をもって別紙疏甲第二号証命令書写しのとおり

「被申立人らは、申立人らが昭和六二年六月四日及び同月一九日付で申し入れた団体交渉申入書記欄の議題について、誠意を持って団体交渉に応じなければならない。」

との救済命令を発することとし、右命令は同年一〇月二七日被申立人らに交付した。

四 本件被申立人は右命令を不服として、昭和六三年一一月九日御庁に対し右救済命令の取消を求める訴を提起し、右事件は御庁昭和六三年(行ウ)第一八号事件として係属中である。

五 現在右の救済を受けた労働者らは全員解雇されており、さらに本件被申立人が破産宣告を受けている状況の下では、労働者及びその家族の生活・身分は甚だしく不安定な状態に置かれ、もし、右訴訟事件の判決確定に至るまで本件申立人の発した右命令の内容が実現されないならば、破産宣告の効力が進行している現状にかんがみ、将来回復不能な損害を被ることは明らかで、また、この状態を放置することは組合の団結権にも回復し難い打撃を与えることは明白であり、かくては労働組合法の立法精神は没却されるに至ることになる。

六 よって昭和六三年一一月二二日第三二六回公益委員会議において、労働組合法第二七条第八項の規定による申立をなすことを決議し、ここに本申立に及んだ次第である。

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